『ハリネズミの願い』でも、だれも来なくてもだいじょうぶです。
谷川俊太郎さんが
「大笑いしてるうちにぎくっとして、突然泣きたくなる21世紀のイソップ」と絶賛した
『ハリネズミの願い』の紹介です。
(おおいにネタバレですので注意)
親愛なる動物たちへ
ぼくの家にあそびに来るよう、キミたちみんなを招待します。
・・・・・でも、だれも来なくてもだいじょうぶです。
他の動物たちとうまくつきあえない孤独なハリネズミが、誰かを招待しようと思って書いた手紙です。
この手紙を読んだ時、「ああ、この手紙はまるで私だ!」と思ってしまいました(笑)
招待の手紙を書いたのに、今までだれも訪ねてくる友達がいなかったハリネズミは、もしも○○が訪ねて来たら?と想像して不安に襲われます。
もしもクマがきたら? ヒキガエルがきたら? ゾウがきたら? フクロウがきたら? ありとあらゆる動物が訪問する想像は突拍子もなく、それでいていかにもありそうでもあり、思わず笑ってしまいますが、ふと身につまされ・・・まさに先述の谷川俊太郎さんの言葉そのままです。
こんなに可愛い絵ですが、「孤独」「自分自身」「存在」「単純さと複雑さ」「空間と無」という言葉が登場したり、意外に哲学的だったりするんです。
ハリネズミが想像する、みんなが訪問することで起こるであろう「アクシデント」の底には、コミュニケーションについて誰もが持つ不安が横たわっています。
「自分を理解してもらえないのではないか」「一方的な要求や期待をされるのではないか」「お互いの話題がかみ合わないのではないか」「知らずに傷つけてしまうのではないか」という不安です。
<ハリネズミのジレンマ>という寓話を聞いたことがあります。
お互いに近づこうとするのですが、自分の身を守ろうとするハリでお互いを傷つけてしまうという喩えだそうです。
物語のハリネズミは自分のハリが嫌いで、それが原因でみんなに嫌われていると思っています。
好かれるためにハリがなくなった自分も想像しますが、悲しい気持ちになりました。
「ハリのかわりに翼をもっていたら、孤独ではなくなるのに・・・」 と思う一方で、そのハリを含めた自分のありのままをみんなが受け入れてくれることを想像します。
そんなハリネズミが訪問客を喜ばせようと、いろいろなもてなしをすることを空想するのですが、それぞれの結果(これも空想)に思わずドキリとします。
たとえば・・・
相手の言うとおりにしてばかりいて、自分が淋しくなっただけでなく、相手もがっかりして去ります。
「みんながおいしいと思うようにと、あれこれ付け足した雲の上までそびえたつケーキ」は結局「だれにとってもひどいケーキ」でした。
ハリネズミは思います。「ぼくは、自分でおいしいと思うケーキを焼くべきなのかもしれない」と。
こうして、さまざまな動物が訪れることを延々と想像しては不安や後悔を味わううちに、日は過ぎて冬眠の季節が近づきます。
本の題名である「ハリネズミの願い」はどうなるのかと、だんだん祈るような気持で読んでいきますと、とうとうハリネズミは最初に書いた招待状を破いてしまいます。
「やっとはっきりわかった。ぼくはだれにも訪ねてきてほしくないんだ」
もう誰も邪魔することはないだろうと思ったハリネズミですが、
その時、予期せぬお客が訪れます。
「なんとなく、キミが喜ぶかもしれないと思って」
と、リスが訪問したのです。
その訪問はごく自然で、ささやかなものでした。
特別なことは何もしなくても、お互いがありのままでいながら、心地よい時間が過ぎます。
リスは招待されたから来たわけではありません。
心配や気遣いで訪問したのでもありません。
「なんとなく、キミが喜ぶかもしれないと思って」
なんて素敵な理由でしょう!
「また会おうね」
ハリネズミは自分が知るもっとも素敵な言葉を胸に、安心して長い冬眠に入ります。
近づこうとするのになぜか、相手を傷つけてしまう自分。
そんな自分を見せないように、もっと別の自分になりたいと思って、自分らしくないことをして疲れてしまう。
嫌われることを怖がって相手の気持ちばかりを気にして、自分らしさがわからなくなってしまう。
ハリという孤独を持ったハリネズミは私とよく似ていました。
リスと一緒に過ごす時、ハリネズミのハリは身を守る必要はなく、そのままでハリネズミを美しくさせていたことでしょう。
リスの訪問の後、ハリネズミはそれまで 大嫌いだったハリを「自分にとって支えであり、頼みの綱である」と思えるようになるのです。
ありのままでいいのだと、自分一人ではなかなか思えません。
いくら大げさなほめ言葉や、高価なプレゼントをもらっても思えません。
お互いがそのままでいることがうれしいと思える友が一人いてくれたら・・・
ありのままの自分でいる幸せこそが、周りを幸せにすると思えるかもしれない。
欠点と思っていた自分らしさを支えとして、頼みとして生きることができたら、それはなんて素敵なことでしょう。
こんな大人のイソップ物語を作った作者は・・・
トーン・テレヘン Tellegen,Toon
1941年、医師の父とロシア生まれの母のもと、オランダ南部の島に誕生。ユトレヒト大学で医学を修め、ケニアでマサイ族の医師を務めたのちアムステルダムで開業医に。1984年、幼い娘のために書いた動物たちの物語『一日もかかさずに』を刊行。以後、動物を主人公とする本を50作以上発表し、国内外の文学賞を多数受賞。取材嫌いでメディアにほとんど登場しないが、オランダ出版界と読者の敬愛を一身に集めている。『ハリネズミの願い』は大人のための〈どうぶつたちの小説〉シリーズの一冊。
この物語を読んで、ブログのことを考えました。
お互いが自分らしくあることで、お互いが元気になれる。
心のままに訪問し合い、安心して心を通わせる。そして「また会おうね」
それが私の願いです。