読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

いつもここにいるよ

あなたがいて、うれしいです

悲しいほど強く「優しくしたい」

音楽

 「こちら あみ子」

 

f:id:ley-line:20161001185719j:plain

第24回(2011年) 三島由紀夫賞受賞・第26回太宰治賞受賞作

 

 

 

ずっと居心地の悪さを感じながら読んでいた。

作者は「何か」を語らないまま話が進む。

 

話の中には悪い人はだれもいない。

むしろみんな優しい人たちだ。

その優しい人達が壊れていく。

優等生のクラスメイトは暴力をふるい、かばってくれた兄は不良になる。きちんとした義理の母は心の病にかかり、穏やかな父はあみ子を捨てる。

 

壊す原因となる「あみ子」。ではあみ子が悪いのか?

あみこ子は生き生きと世界とかかわっているだけ。

家族が大好きで、新しく生まれる弟を待ち望み、そして恋をしただけだ。

 

あみ子はしかし、社会では何らかの「障害」があるといわれるのだろう。

 

「あみ子は私だと思った」と熱烈なメッセージを送った人もいるが、私はそちらにはいない。

私は「壊れていく優しい人たち」の側にいる。

 

社会は優しい人達が壊れないようにあみ子のようなものを排除していく。

壊れた人に同情して「これ(排除すること)は仕方ないよね」「その方が本人にもいいから」と納得する。

 

みんなの足並みを乱し、多数がうまくいくための行動をとらない。

そういう自分たちに都合の悪いものを排除することで守ろうとする社会は、はたして優しい社会だろうか。

 

優しい人が優しくできなくなる過程の描写は痛い。

あみ子に悪気がなく、ただせいいっぱいの愛情表現であるだけになおさらきつい。

 

  

 

優しい人が壊れてしまう原因は「あみ子」なのだろうか。

 

本当の原因を見るのを恐れて「あみ子」のせいにしているのではないのか。

自分たちに都合の良いものだけを良しとする考え、都合の悪いものを排除することで自分が存在できるという思いは結果的に自分を追い詰める。

 

都合の悪いものは、実は自分にとってなくてはならないものかも知れない。

 

 

▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △

 

 

私は小学校の時に知的障害のYちゃんと、家が近所だったので一緒に登下校していた。

はたから見れば私は「面倒を見てあげる子」で「えらい子」だったと思う。

Yちゃんががクラスでほかの子にいじめられると、私は相手が男子でも取っ組み合いのけんかをした。

プールで誰かに足をすくわれてパニックを起こせば、飛び込んで大丈夫だとなだめた。映画鑑賞会で体育館が暗くなると恐がるのでずっと手を握っていた。

でもなぜか二人きりの時、無性に意地悪をしたくなったのだ。

わざとYちゃんが嫌がることをして泣かせてしまった。

私が誤るとYちゃんはいつも許してくれた。

 

  

Yちゃんは小学校を終えると特別支援学校に通うことになり、私とはもうあまり会わなくなった。

たとえ、どこかで見かけても声をかけるのをためらう自分がいた。

 

しかし、これまでの私の人生で最もつらい時期、だれにも会いたくなかった時になぜかあのYちゃんに無性に会いたかった。

 

 f:id:ley-line:20161001190346j:plain

 

その時、本当はずっと私がYちゃんに甘えていたことに気づいた。

 

 

▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △

 

 

 あみ子のことをずっと気にかけている野球少年がいる。

好きとか嫌いとか、自分に都合がいい悪いではないところであみ子を見ている。

 

その野球少年に 

「みんなが自分を気持ち悪いと思うのは、どこか。おしえてほしい」とあみ子は真剣に問う。

 

笑っていた野球少年の顔がふいに引き締まり、あみ子から目をそらさず、少しの沈黙の後ようやく口を開き、堅く引き締まったままの顔で

 

「そりゃ、おれだけの秘密じゃ」

と答える。

 

 そう答える少年の目はおよいでおり、あみ子はそのおよぐ目に向かって、

 

「優しくしたい」と強く思い、言葉を探す。

 

しかし、強く思えば思うほど悲しくなり、言葉は見つからない。

 

あみ子という存在が、自分の大事な場所につながる存在なのだと、少年は気づいていたのだ。

みんなはそれを「気持ち悪い」と言って避けたが、少年は「おれだけの秘密じゃ」と正直に答えた。

それは本当に、自分だけの秘密の場所に違いない。

 

だれにも言えない大事な場所で、少年とあみ子はつながった。

 

そこは悲しいほど強く「優しくしたい」と思える場所。

 

 

  

一人だけで田舎の祖母のところに行くと、父に決められたあみ子。

荷物整理しながら、昔父に買ってもらったトランシーバーを一台見つける。

 

応答するはずのもう片方のトランシーバーはどこかになくなってしまっていた。

 

あみ子はトランシーバーに向かって呼びかける。

「こちら、あみ子!」 

 

壊れたトランシーバーにたった一人答えてくれた兄は、あみ子が「こわくないよ安心しんさい」と手を伸ばそうとした鳥の巣を卵と一緒に投げ壊す。

「その人はあみ子が生まれた時から知っている人だったがどうしても結びつかず、一番強い動物のようだった」という描写が心に残る。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 片割れのトランシーバーは、ずっと私のところにあるのではないか。

私はそれを捨ててしまったのだろうか、それとも見えないところに隠してしまっているのだろうか。

 

 

私が隠していたトランシーバーがどこかでかすかに音を立てている・・・

 

 

 

 

 

www.youtube.com

 


「流星」
たとえば僕がまちがっていても
正直だった悲しさがあるから……流れて行く
静けさにまさる強さは無くて
言葉の中では何を待てばいい……流れて行く
たしかな事など何も無く ただひたすらに君が好き
夢はまぶしく 木もれ陽透かす 少女の黒髪もどかしく
君の欲しいものは何ですか 君の欲しいものは何ですか

さりげない日々につまずいた僕は
星を数える男になったよ……流れて行く
遠い人からの誘いはあでやかで
だけど訪ねさまよう風にも乗り遅れ……流れて行く
心をどこか忘れもの ただそれだけでつまはじき
幸福だとは言わないが 不幸ぶるのはがらじゃない
君の欲しいものは何ですか 君の欲しいものは何ですか

流れる星は今がきれいで ただそれだけに悲しくて
流れる星はかすかに消える 思い出なんか残さないで
君の欲しいものは何ですか
僕の欲しかったものは何ですか

 

 

 

広告を非表示にする