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いつもここにいるよ

あなたがいて、うれしいです

「窓の向こうのガーシュウィン」  あなたの目と耳を貸してほしいんだ・・・記事追加しました!

「窓の向こうのガーシュウィン   宮下奈都

    

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      この物語にはずっと子守唄(サマータイム)が流れている。

 

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 <本文から>

 私は未熟児で生まれたが、「私にはちょうどいい出生だったと思う」

 

体重だけでなく成長してもいつもどこか足りなかった。

時々いなくなっていた父も、ある時出ていってそれきり戻らない。

何かを見ないようにして、いつもそっぽを向いている母。

ごちゃごちゃな家。バラバラな家族。

 

人と話すと雑音が混じりうまく聞こえない。答えようとすると途端に雑音。うなづくしかない。

 

十九年間、黙ってきた。十九年間、どうでもよかった。

 

夜中まで誰も帰らない団地の窓から見える世界。いつか聞いて覚えたお気にいりの音楽が頭に流れる。雑音はない。

  

     「夏が来て、暮らしは楽

     魚が跳ね、綿花は高く背を伸ばす

     あんたのお父さんはお金持ち、お母さんは美人

     だからさ、よしよし、泣くんじゃないよ」

 

  

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 あの人の額装からは、音楽が聞こえてきた。

 

しあわせな歌だと覚えていた歌は、ほんとうは悲しい歌だった。

なんにも知らずに、全部間違えていた。

 

 「あなたの目と耳を貸してほしいんだ」

 幸せの景色を切りとるのだという「額装」の仕事をあの人が手伝ってくれという。

 

 ここはなぜか言葉がよく聞き取れる。

  

聞き憶えた歌は、父が好きだった歌だった。

あの頃家族三人がそれぞれの場所で頬杖をついたり、寝転がったり、マニキュアを塗ったりしながら何となく聴いた歌。

あの時はわからなくても今になってわかる。

あれはやっぱりしあわせな歌だった。

 

     翼を広げ、空へ羽ばたくだろう

     その朝が来るまで、何もお前を傷つけはしない

     お父さんとお母さんがついているから

 

誰も私を急がせないでいてくれた。

早産で生まれた赤ん坊なのに、急いで大きくなる必要がなかった。

雨が降って、太陽が出て、風が吹いて、少しずつ大きくなればよかった。

 

窓という額縁から見える景色。

 

外から見える家々の窓に明かりが灯る。人影、喧嘩する声、笑い声、赤ん坊の生まれる声。

 

「だからさ、よしよし、泣くんじゃないよ。」

エラ・フィッツジェラルドが唄っている。

 

    
Ella Fitzgerald - Summertime (1968) - YouTube

 

 

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雑音が混じる耳はその分、本当に大事なことだけが鼓膜に届く。

物差しで測らない目は、見えるもののその向こうのものをすくい取る。

 

自分のことをそのまま受け入れてもらえる場所、人に出会った時、その人は自分にしかできないことを見つける。

自分に聞こえる声(魂の声)にひるまなくなった時、これまで見えていた景色が変わって来るのかもしれない。

 

「私にはまだ見ることのできない、もしかしたら想像もつかないようなものが、あちこちに潜んでいる。

絵や写真の中だけでなく、たぶん、今立っているこの足下から地続きのところにも。」

 

傍らに置いてページをめくるたびにハッとさせられる言葉がちりばめられている物語だった。詩のような音楽のような文章は優しくて、主人公の感覚は楽しかった。

 

 娘はこの主人公に何となく似ている。

「お母さん、夏の匂いがしたよ!」

不器用な娘だが彼女の言葉は私の中心に響く。

今年の夏まつりには誰かと行くのかも知れない。

 

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   いつもみなさまにコメントをいただいて本当にうれしく、そして助けていただいてありがとうございます。

いつも中途半端でわかりにくい文をみなさんにくみ取っていただいていますが、今回もisaku (id:levites)さんのコメントに、「ああ、そういうことだったんだ」と教えてもらいました。

isaku (id:levites)さんに了解を得られました(そうですよね(^_-))ので、コメントをそのまま記事の方に移動させていただきました。

isaku さんは、この本は読まれていないとのことでしたが、「サマータイム」の曲が要になって、まさに物語の向こうにあるものを、そして私の言葉にできない想いをすくい取ってくれたように感じます。

やはりこのコメントがなくてはならなかったと思います。すみません、フライング状態で更新してしまいました。お許しください。ありがとうございます。

 isaku (id:levites)

サマータイム。母のない子の子守歌。
自分が自分のために歌うしかなかった子守歌。
鼓膜を突き抜けて、心臓へ、へその緒へ、届いた歌。
ただ、その孤独こそが魂の声を聞かせた。
そして荒野の先に光が見えた。
意味不明のコメント、申し訳ありません。
ありがとうございます。

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