東田 直樹 「どこかで誰かが自分を待っている」
「跳びはねる思考」
会話のできない自閉症の僕が考えていること 東田 直樹
東田さんは自閉症です。
「どんな病気か・・・
脳の発達・成熟が障害されることにより、心を通わせることが不自由な、3歳までに発症する神経発達の病気です。子どもの0・1~0・2%にみられます。
自閉症の子は、あたかも自分の世界のなかで生きているかのようにみえ、他人に興味を示すことが少なく、社会性に乏しい傾向があります。また、日常生活の決まりにこだわり、奇妙な行動を繰り返します。コミュニケーションが苦手で、視線を合わすことを避け、他人に愛着を示しません。」 Yahooヘルスケアより
東田さんは重度の自閉症で会話ができず、文字盤を指差しながら言葉を伝えたり、パソコンを利用してコミュニケーションをします。
「跳びはねる思考」は東田さんのエッセイで、他にも詩集や絵本を出しています。
自閉症の人はコミュニケーションがとれなかったり、特異な行動をとるために知能が低いと判断されがちですが、彼の言葉は知的で、鋭く、深いやさしさがあります。
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「 水が恋しい 」
・・・水の中では自由になれます。
静寂で言葉も存在しない世界なら、自分も生きているだけで十分に幸せだと
実感できます。そこには、僕を縛るものは何もなく、時間さえ超越したかの
ような世界が広がっているからです。
「 人の話を聞く 」
僕は、相手のためだという理由で、好き勝手な意見を伝えるよりは、その
人の悲しみや苦しみに、ただ寄り添うほうが、大切なこともあると感じてい
ます。
話すことよりも、聞くことのほうが難しい気がします。
「 自己の確立 」
・・・重度の障害者は、何もできない人間に見られがちですが、実は強靭な
精神力を持っている人も多いような気がします。
人の手伝いがないと生きられないからといって、気持ちまで助けがいると
は限りません。
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「 挨拶 」
僕には、人が見えていないのです。
人も風景の一部となって、僕の目に飛び込んでくるからです。山も木も建物
も鳥も、すべてのものが一斉に、僕に話しかけてくる感じなのです。それら
全てを相手にすることは、もちろんできませんから、その時、一番関心のあ
るものに心を動かされます。
引き寄せられるように、僕とそのものとの対話が始まるのです。それは、
言葉による会話ではありませんが、重なり合うような融合する快感です。
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解説で佐々木俊尚氏は東田さんの世界に、カルロス・カスタネダの「呪術師ドン・ファン」を引用し、世界を見るのではなく”世界を聴く”修行をしたカスタネダが、鳥のさえずりや木の葉のあいだを走り抜ける風の音、虫の鳴き声が区別できるようになり、だんだん音で世界を知ることができるようになることを重ねます。
そしてその世界には”根源的な人間の豊かさ”を感じると言います。
「・・・わたしはその音の豊かさ、きしみにうっとりしてしまった。そして風は藪を
ぬけ、たくさんの小さな物がぶつかり合うような音をだした。それはほとんど旋律
的とも言える音で、吸い込むようで断固としていた。」
カルロス・カスタネダ 真崎義博訳『呪術の体験 分離したリアリティ』
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同じように自分の世界を絵で表現している少女に出会いました。
5歳の自閉症の少女が描く絵が信じられないほど美しい! - YouTube
ほかの子供たちのそばに連れていくと、まったく途方にくれてしまっていたというアイリスは、旅行中の親戚から預かった猫の”トゥーラ”とのの出会いで変わっていった。
二人は出会った瞬間に仲良しに・・・あたかも古くからの友人にようにお互い通じ合っていた。
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どこかで誰かが自分を待っている、そんな感覚になるときがあります。
特定の人を思い浮かべているわけではありません。
相手の容姿や年齢、性別もわからないのに、
「ようやく会えた」という感動だけが、胸の中に繰り返し蘇ってくるのです。
東田 直樹
夢の中で「ようやく会えた」と泣いていたことを思い出しました。